『美しい子ども』松家仁之編  イノセントでスリリングな短編小説集

本と読書

『美しい子ども』は、新潮クレスト・ブックスの創刊15周年を記念して2013年に発刊された短編集です。編者は松家仁之氏。12編が描く多様な世界は心の何かを呼び起こしてくれるはず。

『美しい子ども』は、珠玉の短編集

娘から見た母の人生を描いて、長篇さながらの読後感を残すジュンパ・ラヒリ、孤独で不器用な魂を写しとるミランダ・ジュライ、ユダヤ人を描きながらどこまでも普遍的なネイサン・イングランダー、以上三作のフランク・オコナー国際短篇賞受賞作のほか、マンロー、シュリンク、ウリツカヤなど、クレストから選りすぐった十二篇。

新潮社HPより引用

この本におさめられた作家はアメリカ、ベトナム、ロシア、ドイツ、ベルギー、カナダなど国籍はまちまちです。そして多くの作品で家族が描かれています。

表題作『美しい子ども』は、ベルギーの作家ディミトリ・フェルフルストが自身の子ども時代を描く、下卑た男家族と一時帰郷した裕福で美しい母娘の物語。ベトナム人作家ナム・リーが描くのは、プロのチェリストとなった、先妻の娘に会いに行く老画家の顛末(『エリーゼに会う』)。ドイツのベルンハルト・シュリンク(『朗読者』がベストセラー)は、心の距離のある高齢の父と中年となった息子を描いています(『リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ』)。

いずれも幸せとは言いがたい家族模様。不和で、歪んでいて、わかり合えなくて、裏切られて、けれども希望とともに粛々と日々を生きていく。よその国の知らない家族の話なのに、どこか自分ごとのように感じさせる作品たちです。

イノセントでスリリングな1日のスパイスに

短編小説のよさは、一気にその世界に連れて行ってくれること。私はこの短編集を午前中の仕事や家事の合間に読みました。

舞台や素材は違っても、この本には今この世界で生じている分断や対立、不寛容への不安や戸惑いを写し込むことができます。ときに自分が自覚なく抱えているダークな気持ちや、安易に平和な落としどころを見つけようとする浅はかさに気づかされたりー。

そして、物語はこれからどうなるのだろうという余韻を残して終わります。
1日が物語の登場人物たちとともにあるような、ちょっとイノセントでスリリングな読後感はたまらなく贅沢なものだと実感できるおすすめの短編集『美しい子ども』です。ぜひ。

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