『 偶然の音楽 』ポール・オースター(柴田元幸-訳)破滅したかったのだろうか?

『 偶然の音楽 』ポール・オースター(柴田元幸-訳)破滅したかったのだろうか?

ポール・オースターってどこかで聞いたことのある名前だけど、誰だったっけ‥‥‥、と思いながら手に取ったこの本。

 

私はとにかく「××ず嫌い」が多すぎる。

「食わず嫌い(肉料理の数々)」とか、「行かず嫌い(テーマパークの数々)」とか、翻訳ものの「読まず嫌い」もその一つです。

さすがに最近これじゃいかんな、と。

といっても、肉を喰らい、テーマパークではしゃぎまくる気にはならないので、「読まず嫌い」だけでも克服しようと思いながら、たまたま手に取った本が、この『偶然の音楽』です。

 

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『 偶然の音楽 』はこんなお話

『偶然の音楽』という洒落たタイトルの原題は「The Music of Chance」

アメリカ人作家ポール・オースターの1990年の作品です。

 

妻子と離別した男ジム・ナッシュは、思いもよらぬ多額の父の遺産を手にします。

ジムは消防士の仕事を辞め、コレクションのクラシックレコードを処分し、「赤い車」にカーステレオ用のテープを積んで、ただひたすらに車を走らせ、アメリカじゅうを行ったり来たりする生活を送ります。

 

そんな生活の中で、ジムは、ジャック・ポットと名乗る若い男性に出会います。

ジャック(ジャック・ポッツィ)はポーカーで生計を立てているというが、賭けのトラブルに巻き込まれボコボコにされ、お金もない。

「お金があれば、ある大きな勝負に挑める。もちろん勝算もあるー」

ジムはジャックの話に乗り、遺産の大半をつぎ込み、その賭けのためにある屋敷に向かいます。

 

屋敷でジムとジャックを迎えるのはフラワーとストーンという二人の老人です。
フラワーは元会計士でストーンは元検眼士。

以前、ジャックとポーカーで対戦し完全にカモにされたフラワーとストーン。

その後宝くじで巨額を手にし、現在は二人(+使用人)でこの屋敷で暮らしています。

 

以前も負かした相手だから負けるはずはないー、と考えていたジャックですが、勝負はそのとおりには進みません。

勝負に敗れ、掛け金のすべてと、追加で投じた「車」までも失い、借金を背負ったジムとジャック。

その借金の返済のために、屋敷のはずれに大きな「壁」を作る作業を担うことになります。

 

有刺鉄線が張り巡らされた敷地内のトレーラーハウスに住み、使用人のマークスに監視され、外部との連絡も手紙のみという生活を送るジムとジャックはやがてー。

 

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ジムは破滅したかったのだろうか?

まあ、いくら妻に捨てられたとはいえ、せっかく遺産が転がり込んだのにどういうこと?
と、言いたいけれど、<望みのないものにしか興味を持てない>という刹那的な気持ちがわからなくもありません。

はいえ、ジムの行動からは、慎重で計画性のある性格がうかがえ、人づきあいも常識的。破滅に向かおうとする気配は感じられません。

ジャックと出会い、ポーカーのもうけ話に乗るときも、借金を背負って「壁」を作ることになってからもー。
おもちゃのピアノを弾いたり、賛美歌を歌ったりする、いい人なんですよ。人生に希望を持っていると思えるんですよ。

 

だからこそ、あのラストはなんだったんだろうー、と。

 

そう思って再び冒頭の1ページを読み直すと、「そんなわけで、あっさりと彼はやってのけた。恐れに震えたりもせずに、目を閉じ、飛んだ。」という一文がますます意味深に思えてしまうのです。

 

―――――――

一方、ジム以外の登場人物は謎めいています。

相棒となるジャックは、人たらし的な魅力を秘め、フラワーとストーンは、「壁」を作るようになってからというもの、まったく姿を見せなくなる。その代わりの監視役は使用人のマークス。

彼らはずっと怪しいんだけど、決定的にジムたちを「陥れた」とか「騙した」とかいう事実はなくて、マークスなんて「実はイイ人なんじゃないか?」と思えたりするのです。

 

この世界は誰の意図によって作られていくのか。

ジムは自分に起こる偶然の出来事の理不尽さにどう立ち向かおうとしているのか。

 

読んでいる側も、前向きなんだか、あきらめてしまいたいのか、よくわからない混沌とした気持ちになっていくー。

 

そんな1冊です。

「翻訳のもの嫌い」を克服できそう

読み始めてすぐに「これは、オモシロい!」と思いました。

翻訳ものは、何となく表現が冗長で、リアリティのないギクシャクしたイメージがあったのですが、それがまったくない。すごく読みやすいのです。

 

訳者の柴田元幸さんは、ポール・オースター作品以外にもアメリカ現代作家を多く翻訳されています。

こんな翻訳だったら、「翻訳もの嫌い」を克服できそうです!

 

で、ずっと引っかかっていたポール・オースターは、映画『スモーク』の原作者ということがわかりスッキリ!

 

◆映画『スモーク』のレビューはこちらです。

 

『偶然の音楽』は、アメリカでは映画化(『ミュージック・オブ・チャンス』(1993年)日本未公開)され、日本では仲村トオル主演で舞台化されています。

また、リメイクしてくれないかな、と願う作品です。

 

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