映画タイトル:バーバー
原題:THE MAN WHO WASN’T THERE
製作年:2001年 アメリカ
監督:ジョエル・コーエン イーサン・コーエン
◆映画『バーバー』は、
理髪店で働く寡黙な男エドの転落人生を描いた犯罪映画です。
思わぬことから犯罪を犯した人間が、まっとうに罪を償う機会を逸し、さらなる災いに翻弄されていくー。コーエン兄弟ならでは皮肉とブラックユーモアが効いた作品です。
◆キャスト
・ビリー・ボブ・ソーントン(エド・クレイン)
義兄の理髪店で雇われて働く男。寡黙でほとんど会話をしない。
・フランシス・マクドーマンド(ドリス・クレイン)
エドの妻。デパートで帳簿係として働いている。夫婦仲は初めから冷えており、子供はいない。
・ジェームス・ガンドルフィーニ(ビッグ・デイヴ)
ドリスの働くデパートの上司。ドリスと不倫関係にあり、支店を出すために会社の金を流用している。
・トニー・シャルーブ(フレディ・リーデンシュナイダー)
エドに雇われた弁護士。腕は立つが金にうるさい。
・スカーレット・ヨハンソン(バーディ・アバンダス)
理髪店の常連客の娘。ピアノの演奏を趣味としているが、プロになる気はない。
◆映画『バーバー』の見どころと感想
(*ちょっとネタバレありです)
-USA Films / Photofest / ゲッティ イメージズ
義兄の経営する理髪店で働くエドは、タバコばかりふかしている寡黙な男。そのエドは、妻ドリスとその上司デイヴとの不倫を疑っています。
ある日店を訪れた客クレイトンの投資話(ドライクリーニングの開発)に興味を抱き、その投資資金の10,000ドルを、デイヴを恐喝することで得ようと考えます。
エドは計画通りお金はだまし取ったものの、デイヴにバレてしまい、呼び出され締め上げられます。
そして抵抗したはずみででデイヴを刺殺。
しかし、後日、殺人の容疑がかけられたのは妻のドリスでした。
クレイトンはお金をもって姿を消し、エドは騙されていたことに気づきます。
理髪店の客である弁護士ウォルターの紹介で、腕利きと評判のリーデンシュナイダー弁護士を高額の費用で雇うエド。
エドは自分が犯人であることを告白しますが、リーデンシュナイダーは「妻を庇おうとしている」と相手にせず。「デイヴがホラ吹きで横暴をいう人間性を明らかにし、恨みを買っていたと印象付ければ、ドリスは死刑を免れる」という作戦でのぞみます。
が、公判当日にドリスは自ら命を絶ってしまいます。
失意と孤独のエド―。
エドが唯一の心のよりどころとするのは、ウォルターの娘のバーディが奏でるピアノでした。
バーディを世に出したいと考えたエドは、演奏を聴いてもらうために専門家を訪ねます。
しかし、バーディの演奏は「譜面通りで魅力がない」と酷評。
さらにその帰り道で、「お礼がしたいの」とバーディに迫られ運転を誤って大事故を起こしてしまいます。
事故から目覚めたときに目の前にいたのは刑事。エドは殺人の容疑で逮捕されます。
エドは誰の殺人容疑で逮捕されたのかー。
―――――――
この映画は、エドの語りで進んで行きますが、妻ドリスが死んだ後からの話が冗長で、フィルム・ノワールを踏襲した映画の雰囲気にマッチしない妙な感じが出てきます。
が、それこそがコーエン兄弟が仕掛けた「イタズラ」です!
このイタズラが分かると、「人生を達観し孤独も罪も受け入れる寡黙な男」と思っていたエドに対する印象がガラッと変わります。
そして、この映画全体の印象も変わります。
エドの寡黙さに対して、義兄や不倫上司、辣腕弁護士、詐欺師たちはみんなうるさいヤツばかり。
また、冷え切った関係の打算的な妻ドリス(安定の存在感のフランシス・マクドーマンド)に対し、天使のような(でも15歳にして、すでに色気ムンムンのスカヨハ)バーディ。
このように、ハッキリとした対比(モノクロの意図もそこ?)が見て取れる映画ですが、そこが崩れることで、人間の善悪や幸不幸なんて、すごく混とんとしていて、ハッキリしないものなのかもしれない、と考えさせられるのです。
まさに、「してやられたり!」と唸りたくなる映画です。