『服従の心理』スタンレー・ミルグラム なぜ人は従ってしまうのか?日大アメフトと信者ビジネス

服従おすすめの本と読書の話
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「たとえ監督やコーチに指示されたとしても、私自身が『やらない』という判断をできずに、指示に従って反則行為をしてしまったー」

20歳の青年の真摯な告白は、社会に大きなインパクトを与えました。(日大アメフト反則タックル問題-2018年5月加害選手記者会見)

「指示はしていない」「指示と受け取り方との乖離」などと、見苦しい言い訳を続ける監督に対し、「なぜ、反則と判っていながら指示に従ってしまったのだろう、逆らえない指示がそこにあったのではないかー」と、誰もが感じたはずです。

しかし、程度の違いこそあれ、これは社会や組織の中で起こりがちな問題です。

はたから見ると「なぜこんな(胡散臭い)人に従うの」「なぜこんな中身のない話を信用するの?」と思えることでも、当事者には「服従」の意識はありません。

いつ自分がその当事者になるか分からない、もしかするとすでに誰かに、何かに「服従」しているのかもー。

 

なぜ人は従ってしまうのでしょうか?

アメリカ人社会心理学者のスタンレー・ミルグラムが行った「服従実験」と、それをまとめた著書『服従の心理』をもとに考えてみます。

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スタンレー・ミルグラムの「服従実験」とは

1960年代にミルグラム博士が行った「服従実験」とは、学習者(実は協力者)に簡単な記憶テストを行い、解答を間違えると電気ショックで罰を与えるという実験です。

 

 

罰を与える先生役が「服従実験」の真の被験者です。「先生」か「学習者」かは、くじ引きで決めるようになっていますが、くじは細工され、必ず被検者が「先生」になるように仕込まれています。

「学習者」が解答を間違えるたびに与える電気ショックを強くするよう「監督者」に指示され、途中で学習者が「やめてくれー!」と声を上げるにも関わらず、最大値まで電気ショックを与え続ける人が多数いたー、という衝撃の結果をもたらしました。(もちろん、ホントに通電はされておらず、終了後にネタバレもされています)

 

ネタバレのあとの詳細なインタビューにより、「どうして電気ショックを加えることをやめなかったのか」、「躊躇しなかったのか」など、被験者の心理が明らかになっています。

多くの人は「監督者の指示に従わなければならなかった」と述べ、なかには「答えを間違う学習者が悪い」と答えた被験者もいました。

スタンレー・ミルグラムによる「なぜ服従するのか」の分析

服従実験は、基本実験に加えてあらゆる条件を変えながら実施されています。

その結果、ミルグラム博士は、「人は『権威』に従う」という考察を示しています。

さらに細かい分析は、以下のとおりです。

●ヒエラルキーの中での服従

社会や組織で形成される階層的な構造(ヒエラルキー)には利点があります。

<ヒエラルキーによる組織化の利点>
・競合他者からの攻撃や脅威への対応が可能
・内部統制による安定と調和が保たれる

この構造の中で生じる「服従」は、組織内外の危険から自身を守ることにつながります。

日大アメフトの加害選手が置かれた状況は、まさにコレだったのでしょう。

●エージェント状態

権威システムに加わる人は、

もはや自分が独自の目的に従って行動しているとは考えず、他人の願望を実行するエージェント(代理人)として考えるようになるー。

<『服従の心理』本文より引用>

とミルグラム博士は分析しています。

 

偉い人の判断にお任せして、その指示でやったことに対しては「言われたことをやっただけですし」と回避する、よくあるアレです。

「オレが全責任をとる!」とのたまう上司を信用して後で大問題となり、「言った言わない」の泥仕合になる原因の一つです。

前述の「保身」よりもさらに問題な心理状態で、ミルグラム博士による「服従の心理」の中核はココにあると私は理解しました。

別名「アイヒマン実験」と呼ばれる背景

ホロコースト

「服従実験」は、別名「アイヒマン実験」と呼ばれています。

 

第二次世界大戦中のナチス・ドイツが行ったユダヤ人に対する大量虐殺(ホロコースト)で、ユダヤ人たちの強制収容所送りを指示したアドルフ・アイヒマン。

アイヒマンは、終戦後逃亡生活の果てに逮捕され、裁判にかけられますが、大量虐殺に関わった極悪非道、冷酷無比な大悪党ではなく、ただ指示に従って行動したにだけの凡人であったことが明らかになります。

 

凡人が、なぜホロコーストのようなことをなしえたのか。

ミルグラム博士の「服従実験」では、性別や職業、生来の攻撃的性向などとは関係なく、「誰でもアイヒマンになり得る」という結果をもたらしたことから「アイヒマン実験」と呼ばれています。

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「服従実験」に対する社会の反応

ミルグラム博士の「服従実験」は、実験結果の発表当初から現在まで、さまざまな波紋を呼んでいます。

1960年代、実験当時の評価

当時の心理学者たちは、「最大値まで電気ショックを与える人などいない」と見込んでいました。

しかし、多く人が指示に従って最大値まで電気ショックを与えたという結果に、難癖をつけるように実験の手法や倫理性に対する多くの批判が上がりました。

本書では、そうした批判に対するミルグラム博士の反証と実験の有効性が記されています。

2000年代での評価

ミルグラム博士は類似実験を続けたのち、1984年に死去しています。

2004年に書かれた本書(文庫版)あとがきでは、ミルグラム博士の先生でもある教育心理学ジェローム・S・ブラナー(ブルーナー)氏が、イラク戦争における米軍のイラク囚人に対する侮辱行為をあげ、「権威への服従は容易に起きる」と述べています。

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「信者ビジネス」のカラクリ 人が従う「権威」とは?

この本を読んでいると、人が「権威」に従うことは、ある意味自然な心理状態に思えてきます。

しかし、ひとつ大きな疑問がー。

「権威」って何でしょうか?

 

本書の中では「権威」という言葉が幾度となく登場し、人間が従わざるを得ない強大な力を持つものとして存在しています。が、ミルグラム博士の説明では、今ひとつハッキリしません。

 

本書の訳者、山形浩生氏は、訳者という立場を離れた「蛇足 服従実験批判」で同じ疑問をあげ、「『権威』は『信頼』の裏返し」と説明しています。

人は盲目的に権威に従うのではなく、権威にふさわしい「信頼できる対象」と認識するから「服従」する。

 

インチキ宗教や、信者ビジネス、あやしい民間医療を成り立たせているのは、こうした「服従の心理」ではないでしょうか。

「こんな素晴らしい人が自分を陥れるはずはない」「成功している人の言うことだから間違いはない」「とにかく魅力的で憧れるからー」は、信頼が生みだす「服従の心理」です。

 

件の加害選手には、コーチに対する長年の信頼があったといいます。

単なる隷属的な「服従」ではなく、「信頼」があり、結果、裏切られてしまった選手はどれほど辛かったことでしょう。

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雑感的なまとめ

犬と人の背中

人間は、なにものにも従わずに行動するのは難しい存在です。

ならば、せめて「正しいこと」「良いこと」に従いたいと思います。

が、「何が正しいことなのか」「何が良いことなのか」に絶対的な尺度はありません。

圧力や脅威で彩られた「権威主義」から逃れ、「自由な生き方」「好きなことだけをする」「楽して稼ぐ働き方」に引き寄せられていくのも分からなくはありませんが、そこは新たな「服従」の始まりかもー。

 

良いことも悪いことも、大きな力に個人であらがうことはできません。

月並みですが、いろんな考えや意見を聞く機会を持ち、自己にも他者にも心酔し過ぎないことが最大の自己防衛ではないかと思います。

 

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