批評を独学している私による、ほぼ私のための超解説です。できるだけ噛み砕いたものを置いていきますので、興味のある方はどうぞ。
今回は音響です。
1927年の映画『ジャズシンガー』で初めて映像と音声が同期した、いわゆるトーキー(トーキング・ピクチャーの略です。←知らなかった……)映画が公開されて以降、映画の中の”音”の世界はものすごい進歩を遂げてきました。
音響は映像の印象だけでなく、ときには意味さえも変えてしまう、映画において欠くことのできない重要な要素です。
が、正直なところ、私は映画を見ているときに「この音響はスゴイ!」と思うことはほぼありません。映画の音がどうやって作られているのか、という見方もそれはそれで面白いのでしょうが、そこはマニアックな世界。
この「批評を独学する」では、あくまでも完成した映画の中での音響の効果を考えていきたいと思います。
◆作り手のマニアな世界はこちらのドキュメンタリーをどうぞ
『ようこそ映画音響の世界へ』 (2019年)
環境音が大きくて音声が聞き取れない!
日本映画はもちろん字幕を読む海外の映画でも音声が聞き取れないのはモヤモヤします。
が、これはあえてそうしていると見ることもできるでしょう。
*参考映画:『野火』(2014年・塚本晋也監督)
第二次世界大戦の末期、フィリピン・レイテ島での日本軍を描いた作品です。
この映画、非常に台詞が聴き取りにくい。でボリュームを上げると戦闘シーンの爆音が心臓に悪いほど大きいのです。

が、この映画に描かれている凄惨な地獄と化した戦地で誰がハキハキと喋れるでしょうか。「言語」という人間性すら失われていく世界ー。
この映画はあえて音声を潰している、と見ることができるのではないでしょうか。
映画には人工的に作られた音がいっぱい
存在しないものが存在し、言葉を発しないものが発する、それが映画の世界です。
これら人工的に作られた声、音に違和感がないかは気になるところです。
*参考映画:『エクソシスト』(1973年)
オカルトホラーの金字塔のこの映画。少女に憑りついた悪魔が喋ります。 この映画に限らず海外の悪魔は日本の幽霊に比べよく喋ります。

実際悪魔の声を聞いたことはありませんが、あの”くぐもったようなダミ声”に、「悪魔ってこんな声なんだろうな」と納得させられます。作られたその声が悪魔に対して多くの人が抱いている印象と映像にマッチしているからでしょう。
足音、ドアを叩く音、風の音、水が流れる音といった普段耳にしている音だけでなく、宇宙船が飛んでいく音やコンピューターで処理される音、妖精が瞬きする音など、実際に耳にしたことのない音も映画では表現されます。
それが何か意味を持っているのか、効果的かどうか、違和感はないか、”音響的”見どころのひとつでしょう。
ADR(アフレコ)について
現場撮影での音声が聴き取りにくい、ほかの音声との兼ね合い上撮り直したい、などの理由で台詞だけを後から重ねるADR(アフレコ)。
完成映画を見る限りどこがADRなのかはわかりません。が、例えばロングショット(被写体とカメラの距離が離れている)なのに会話がハッキリ聞こえるとか、連続したシーンなのに声の大きさや質が違うといった違和感があればわかるかもしれません。
が、わかったところでどうなんだ、ADRだから何なんだ、という話で、そのシーンをぶち壊していない限り気になるものでもありません。特典映像を見て「あ、あれってアフレコなんだ!」という楽しみ方でイイでしょう。
影響大!「音楽」の力
「声」「環境音」と並んで重要な要素である「音楽」。 有名な楽曲やオリジナル曲など映画を盛り上げる上で欠くことのできない音楽です。
アカデミー賞では「音響賞(2020年までは「音響編集賞」と「録音賞」に分かれていた)」とは別に「歌曲賞(主題歌賞)」があり、映画のために作られたオリジナル曲に与えられます。
『レット・イット・ゴー』(2014年『アナと雪の女王』)『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』(1998年『タイタニック』)『セイ・ユー・セイ・ミー』(1986年『ホワイトナイツ/百夜』)『雨にぬれても』(1970年『明日に向かって撃て!』)『ムーン・リバー』(1962年『ティファニーで朝食を』)名曲揃いです。(あくまでも個人の好みでピックアップしました)
また主題歌とば別にBGMに与えられる作曲賞もあります。こちらは1988年に坂本龍一が『ラストエンペラー』(1987年・ベルナルド・ベルトルッチ監督)のサントラで受賞しています。
これらの楽曲、音楽そのものの魅力はもとより、その使いどころにも注目です。
*参考映画:『ハングリー・ハーツ』(2014年)
序盤の結婚パーティーのシーンで使われるアイリーンキャラの「ホワット・ア・フィーリング」
これは映画『フラッシュダンス』の主題歌として大ヒットした楽曲で、これを聞いてフラッシュダンスを思い出さない人はいないでしょう。なのにこの映画は『フラッシュダンス』とは何の関係もないカルトホラーです。なぜ?
映画はサラウンドで見るべき!?

最後に映画の音響を語る上で避けては通れない(通りたいけれど)、鑑賞時の音響環境についてです。
冒頭で述べたとおり、映画の音響は素晴らしい進化を遂げ、あたかもその場にいるかのような”臨場感”を作り出すようになりました。
今の映画館はもはや映画は「観る」ものではなく「体験する」ものとして、さまざまな上映設備を有しています。その中で現在、最新の音響技術は「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」
天井を含めた最大64方向から3Dで音が出る。戦闘機が後から迫ってくるとか、全方位からゾンビが襲ってくるとか、あたかもその場にいるかのような”臨場感”です。
正直、私はこのあたりには疎い。疎いうえに興味も薄い。”爆音映画祭”など論外です。
配信やDVDで自宅で見る(プロジェクター+スクリーン サラウンドは組んでいません)という映画生活で、好んで見るのは地味なドラマ映画。なので今の音響技術のスゴさは実感できていません。
映画館のアトラクション的進化の一方、スマホやタブレットで鑑賞する人もいる多様性の時代ですから、これはこれでヨシとしましょう。
今回はここまで。
<参考文献>
『映画技法のリテラシー』 1.映像の法則 2.物語とクリティック
『映画編集とは何か 浦岡敬一の技法』
『アートを書く!クリティカル文章術』
『映画史を学ぶ クリティカル・ワーズ』
『現代映画ナビゲーター』
『シネマ頭脳 映画を「自分のことば」で語るための』
『Viewing Film 映画のどこをどう読むか』