良い映画編集とは、どこをどう編集しているのかわからない編集

批評を独学する
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批評を独学している私による、ほぼ私のための超解説です。できるだけ噛み砕いたものを置いていきますので、興味のある方はどうぞ。

今回は編集について。

「編集」とは撮影されたフィルムをつなぐ作業。専門の編集技師がいる場合もあれば、監督自らが編集にあたるケースも多い。

普段私たちが見ている映画は編集されたものです。「良い編集とは、どこをどう編集しているのかわからない編集」といわれるように、映画本編を見るだけで編集の意図や良し悪しはわかりにくく、DVDの特典映像などで編集の裏話などを確認するとなるほど、と思うことも。

ちなみに映画『へイル、シーザー!』(2016年)で、フランシス・マクドーマンド演じるのがハリウッド黄金期の編集技師。めっちゃ大変そうで面白い。

映画における編集とは、を独学します。

映画編集のおもな手法と心理的効果

映画『へイル、シーザー!』

・カットイン
次のシーンへ特別な加工なしで切り替わる

フェードイン/フェードアウト
徐々に映し出される(消えていく)

・ディゾルブ(オーバーラップ)
次のシーンの画を重ねていく

・ワイプ
画が縮小し次の画になる
周囲がボケながら次の画に変わる(ボケワイプ)

・アクションカット
アクション(歩き出す、殴る、振り返るなどの動き)の途中でカットを切り、次のカットでアクションの途中からつなげる

・ダイアログカット(台詞つな
台詞をきっかけに次のカットへつなぐ

・音つなぎ
次のシーンの音(台詞)が前のシーンに入り込む(音のずり上げ) またはその反対(ずり下げ)。
音のずり上げは「予感」、ずり下げは「余韻」の効果がある

・インサート
一連の映像の合間に別のカットを挿入する
次のシーンを理解しやすくする 時間の経過をあらわす

・モンタージュ
別々のカットをつないで、狙ったの意味や雰囲気を表す編集 

*参考映画『太陽はひとりぼっち』(1962年)

映画『太陽はひとりぼっち』

「今夜8時にいつもの場所で」と約束した2人。が、映画はこの後、街の風景のモンタージュで終わり。なんとも言えない空虚さは、2人は二度と会うことなく別れたことを思わせるし、この世界そのものがなくなってしまったとも思わせる。

こちらの記事のソヴィエト・モンタージュ理論も参考に。

良い編集とは、どこをどう編集しているのかわからない編集

毎年のアカデミー賞予想でも悩みどころの編集賞。
冒頭でも書いたとおり、「良い編集とは、どこをどう編集しているのかわからない編集」といわれます。

なので、作品賞候補に編集賞も、と予想することが多いのですが、結果そうならないことばかりです。
例えば2021年の編集賞は技術部門を総なめにした『DUNE/デューン 砂の惑星』 作品賞は『コーダ あいのうた』で同作は編集賞にはノミネートすらされていません。

いったい良い編集とはどういう編集なのでしょうか。

良い編集は、映画の魅力をより引き出している

「良い編集」を一言でいえば、編集が映画の出来を引き上げている、ということでしょう。
まちがっても引き下げたり、台無しにしてはいけない。

作風と編集技法にミスマッチはないか

リアリズムな作品なのにディゾルブやワイプなどオプティカルな技法が多用されていたらかなり違和感があるはず。

*参考映画『エデンの彼方に』(2002年)
映画の部隊は1950年代のアメリカ。当時のメロドラマ風の編集手法で時代感を演出している。

*参考映画『デス・プルーフinグラインドハウス』
グラインドインハウスという低予算で作られるB級映画を模した「意図的に雑な編集」が効いている。

2時間という映写時間への凝縮がうまくいっているか

数年、数十年を描いた映画の場合、いい編集であれば凝縮や短縮に不自然さを感じない。
一方、映写時間と同じ2時間ほどを描く映画の場合は、間延びしない印象となっているか。
これらをチェックしたい。

時間の遡行や回想シーンの処理は

時間が行ったり来たりする作りはストーリーがわかりにくくなりがち。あえてそうする意図はなにか、編集の処理に注目。

「悪い編集」は地上波での放映を参考に。放送時間の制限やCMの関係上、やむなく酷い編集となっていることも多い。

監督と編集について

映画『ブレードランナー』

映画の編集権は必ずしも映画監督にあるとは限りません。
ハリウッドでは伝統的に編集の最終権利はプロデューサーにあります。また、監督に編集権がある日本映画界に比べ編集者の役割は非常に大きいといわれています。

しかし、監督は公開版となった編集に満足できないことも。で、後に自分の編集版(いわゆるディレクターズカット版、基本公開版より長い)を出すこともめずらしくないのです。(例:様々なバージョンがあることで有名な映画『ブレードランナー』)

編集の仕方で映画の印象やテーマ性の解釈が変わってくることも。見比べてみると面白いでしょう。


日本からは二大巨匠の対照的な編集を。

小津安二郎監督は基本シナリオ通りに編集し、映画的技法を極力排除した編集を行っている。台詞つなぎで独特な間合いを作る「静」の編集。

これに対し黒沢明監督は「動」の編集。オプティカル技法を多用し、リズミカルでダイナミックな作風に仕上げている。監督自身も「編集作業は楽しみ」だったと語っている。

これも見比べてみると面白いでしょう。

今回はここまで。

<参考文献>
 『映画技法のリテラシー』 1.映像の法則 2.物語とクリティック 
 『映画編集とは何か 浦岡敬一の技法』
 『アートを書く!クリティカル文章術』
 『映画史を学ぶ クリティカル・ワーズ』
 『現代映画ナビゲーター』
 『シネマ頭脳 映画を「自分のことば」で語るための』
 『Viewing Film 映画のどこをどう読むか』

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