レビューを映画や本の「感想文」で終わらせないために

批評を独学する

「映画や本のレビューをもっと実のあるものにしたい」
「単なる紹介や感想文で終わらせたくない」

そうだ、批評だ。批評を書こう!と思い立ったものの、その書き方がわからない。批評と感想文とは何が違うのか、批評ってどうすれば書けるようになるのか、そもそも批評ってー。

道半ばですが、独学で「批評」を学ぶための参考文献や情報をまとめてみました。

批評ってどう書くの

まず手に取ったのがこちらです。『批評の教室』(北村紗衣 著) 

『批評の教室』の内容紹介 

批評はなによりも、作品を楽しむためにあります。本書では、批評を「精読する」「分析する」「書く」の3つのステップに分けて、そのやり方を解説していきます。チョウのように軽いフットワークで作品を理解し、ハチのように鋭い視点で読み解く方法を身につけましょう。必要なのは、センスではなく調査力と注意深さ。そしていくつかのコツを飲み込めば、誰でも楽しく批評ができます。作品をより深く理解し、たくさんの人とシェアするための、批評の教室へようこそ。

筑摩著某HPより

これ1冊あれば批評が書ける! はずはない

私が批評を書きたいと思うきっかけとなった前述の本と同じ著者による、まさに「批評」を学ぶための本です。読みやすそうだし、これさえあれば「批評」は書ける、と思っていたら、思いのほか難解。
いや、これを難解と思ってしまう自分のレベルを思い知ったのです。

そもそも批評って何?  そこから数冊の本を併読することになりました。

批評って何? 

次に読んだのはこちら『高校・大学から始める批評入門 「感想文」から「文学批評」』(小林真大 著)です。

『高校・大学から始める批評入門 「感想文」から「文学批評」』の内容紹介

「この作品の面白さを誰かに伝えたい!」
そう思ったら、本書を開いてみてください。
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大学は「感想文」では許されない
レポートや論文を書くことが要求されます。
大学の文系学部を意識している高校生にも
「文学批評」の基礎からわかる本書をお勧めします!

小鳥遊書房HPより

その作品の価値を説得力を持って伝える

高校・大学って学生でもあるまいしー、と侮ることなかれの1冊です。
文学作品で味わった感動や面白さを多くの人に伝えたい。その思いに説得力を持たせるのは「客観性」や「論理性」です。

その客観性や論理性に欠かせないのが批評力。自分勝手な感想だけではなく、その作品の価値を説得力を持って伝えることが「批評」なのです。

この本では序章「文学批評には『型』がある?」で文学批評を6つのタイプに分類し、以降の章でそれぞれの批評の理論や実践例を紹介しています。

文学批評は時代とともに変遷している。時代が批評に影響を与えると同時に、批評が作品を通して時代に影響を与えてきた。ちょっと話が壮大になってしまいましたが、批評を学ぶ気持ちを後押ししてくれるー、そんな1冊です。


批評とは、についてはこちらの本も参考に。

『文学のレッスン』(丸谷才一 著)

こちらも批評の型と時代背景を解説。対談形式なのでとても読みやすい1冊です。

批評にはまず「精読」 

批評とは何か、をザックリ理解したところで『批評の教室』に戻ります。

批評ってどう書くのかー、です。が、書くのはまだ早い。批評の第一段階は「精読」です。
精読とは注意深くしっかり読むこと。しっかり読めている?私。

見出しや太文字だけを追う”つまみ読み”ではダメ!

「視力がー、集中力がー」といった加齢による問題はもちろん、見出しや太文字だけを追う”つまみ読み”や”飛ばし読み”に馴れてしまい、しっかり読めなくなっている気がします。

効率性が重視される昨今、”つまみ読み”や”飛ばし読み”も必要でしょうが、そういう「読み」と「精読」はまったく別物です。

このあたりのことをしっかり学ぶための次の参考書はこちら 『「読む」技術 速読・精読・味読の力をつける』(石黒圭 著)

『「読む」技術 速読・精読・味読の力をつける』の内容紹介

本書は、化石化した自分の読みに揺さぶりをかけ、新たな読みを自分で開発する力をつけるための、八つの戦略(ストラテジー)を紹介。読むという行為をとらえ直し、読み方の引き出しを増やし、実生活での創造的な活動に結びつけることを目指す。

光文社HPより

「速読」は今回不要かとも思いましたが、一応読んでおきます。「味読」というのは「速読」と「精読」の中間のような、楽しみのための読みと理解していいでしょう。


読めば読むほど「読み」が大事なことがわかってきます。

そこでさらにもう1冊『読解力を身につける』(村上慎一 著)

『読解力を身につける』の内容紹介

「国語」の読解とは何でしょうか。どうすれば読解力が身につくのでしょうか。段落の意味とは? 要約はどのようにまとめるのか?……。評論文、実用的な文章、資料やグラフ、そして文学的な文章など、文章の種類によってそれぞれ異なる読解の方法を丁寧に解説。ロングセラー「なぜ国語を学ぶのか」の著者による国語入門です。
「読解力」とは、言葉の表現者の意図を正確に読み、それを自分の言葉に置き換えて解釈する力である。

岩波書店HPより

先生と生徒の対話形式で「読解力」を身につけていくこの本。先生曰く、まずは「評論文」の読解から行こう!と。

ん? 
批評つまり評論文を書きたい→書き方がわからん、批評が何かもボンヤリ→まずはちゃんと読め→まずは「評論」を読め

なんだか批評の周りを堂々巡りしているように思えますが、この本は先生の教えがいいのか(本の)生徒の理解がいいのか、たしかにわかりやすいし実践的です。

学校の授業であった「この文章を読んで、要旨を200字にまとめよ」みたいな問いを思い出します。あの頃はめちゃくちゃ嫌だった。まさか、この歳になって自主的に勉強することになろうとは……。

評論を読む

というわけで、評論を読みます。教材はこちら『高校生の批評入門』『ちくま評論選』

『高校生の批評入門』の内容紹介

批評とはなんでしょうか。それは世界と自分をより正確に認識しようとする心のはたらきであり、みなさんの内部で日々“生き方をみちびく力”としてはたらいているものです―筑摩書房の国語教科書の副読本として編まれた名アンソロジー。どこかですすめられてちょっと気になっていた作家・思想家・エッセイストの文章が、短文読み切り形式でまとめられている。一般的な「評論文」のみならず、エッセイ・紀行文・小説まで含む編集が特徴。論文の読解や小論文の技術を習得するだけでなく、ものの考え方や感じ方まで鍛えることのできるワークブック。

筑摩書房HPより

両書とも優れた批評が多数掲載されており、設問と解説が準備されています。”高校生のためのー”、ではあるものの大人にもたいへん有用なテキストです、というか正直ついていくのがやっとです。

自分の言葉で表現する

精読のゴールを「読解」とするならば、何をもって読解できたと言えるのか。それは、「テーマ」「意見」「根拠(論拠)」の3点を自分の言葉で表現すること。これが「読解」です。

自分の言葉で表現……、少しずづ「批評を書く」に近づいてきました。

文学を読んでみる

しかし、まだ「読み」が続きます。批評を書く前に「精読」で文学作品を読んでみましょう。

基本的には評論の読みと同じですが、読解以外に鑑賞の側面(味読)もあるのが文学作品です。

作者の表現意図を読み取る

読みのポイントは、「あらすじ」を追うだけでなく、どう表現されているかに作者の意図を読み取る。主人公や登場人物に感情移入し過ぎることなく、別の世界を生きる人間を観察する態度で読む、などでしょう。

映画鑑賞にも同じことが言えます。
何を描いているのかというストーリーを追うだけでなく、場面構成や映像(カメラワーク、カット割りなど)、音楽など、「どう描いているか」を読み取ることが「批評」につながるのです。

映画については『Viewing Film 映画のどこをどう読むか』(ドナルド・リチー 著)を参考に、別記事にまとめていく予定です。

まとめ 

「批評が話題になるのは誰かと誰かが喧嘩したときだけみたいで、(中略)ただ争あるのみになって、それをみんながはやしたてる。そういうことが日本の批評をずいぶん下等にしたし、無内容にしたし、批評家がものを考えなくなる下地をつくったんですね。」

『文学のレッスン』より

丸谷がこう評するように「批評」界隈の空気はピリピリしがちです。批判や批難とごっちゃにされて炎上の火種になることも。「本や映画をどう読もうと自由」「感想に間違いはない」は、たしかにそうです。

けれどもよくよく「批評」や「読解」について学んでみると、感想も作品によって喚起されたものであることがわかってきました。喚起される感想(感情)はさまざまであっても、作者の表現意図や作品の背景を読み取ることなくしては、自分の感じたことを人に届けることはできないのでしょう。

独りよがりな「感想」から「批評」へ。 

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