『 恋文の技術 』森見登美彦 ただなんとなくつながりたい

『 恋文の技術 』森見登美彦 ただなんとなくつながりたい

あろうことか、「森見登美彦 苦手」 というキーワードで、このブログが検索されている。

たしかに独特のめんどくさい文体を使い、わけのわからない妄想ワールドに引きずり込む作家ではあるけど、「苦手」だなんて思ったことはない。

いや、ないはず。たぶんない。

いやいや、「森見登美彦 苦手」という意識がないだけで、実は深層心理では「森見登美彦 苦手」と思っているのだろうかー。

いやいやいや、これ以上「森見登美彦 苦手」と書くと、この記事もまた「森見登美彦 苦手」で検索されてしまうではないかー。

「苦手」かどうかはさておき、「好き」であることは間違いない。

◆「森見登美彦 苦手」で検索されてしまう記事はこちらです。

「ファンタジーが苦手な人にも届く夏の物語 『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦」

聞くところによると、「彼氏・彼女の好きなところを100個書いてプレゼントする」とか、「自分の好きなところを100個書き出す」というワークが流行ってるというが、

 

修行ですか!?

 

「好き」を出し惜しみしているわけではないけれど、そんなにポンポンと出てくるもんでもない。

ムリにひねり出そうとすると、

「ホントに『好き』なのか? ムリして『好き』と思い込んでいないか?」
「まいっか、とりあえずコレも入れとけ、『好き』なことにしておけ」

と、「好きなこと偽装」に手を染めることになる。

いかん! 偽装はいかん!

本当の「好き」とは何か、それを相手に伝えるにはどうすればいいのか、その技術とはー。

といったことは、まったく書かれていない本書ですが、私のように「好き」を伝えあぐねている方々に強くおすすめしたい1冊です。

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『 恋文の技術 』はこんなお話

『恋文の技術』は、大学院生・守田一郎が友人、知人と文通をするというお話です。

京都の大学の研究所から、なんらかの陰謀によって能登の実験所送りになった守田は、奇妙な指導者、谷口さんに翻弄されるだけの孤独な日々を送るなか、友人、小松崎の恋愛相談を機に「文通武者修行」を始めます。

およそ役に立ちそうにない恋愛アドバイスの末、なぜか三枝麻里子を射止める小松崎
そのマリ先生に思いを抱く、元教え子の間宮少年
数々の攻撃を仕掛けてくる研究所の先輩、大塚緋沙子大魔王
恋文のアドバイスを受けるはずが、執筆の懊悩(おうのう)ばかりを吐き出す作家、森見登美彦氏
兄を兄とも思わず、「督促状」を送ってくる妹、薫

守田は彼らに、能登の孤独な暮らしや、実験所の状況などを書いた手紙を送り続けます。

そして、一時的に能登から京都に戻った守田は、ある事件に見舞われることに。

森見氏、マリ先生、間宮少年、妹、そして守田が思いを寄せる伊吹夏子に、「方法的おっぱい懐疑」の現場を目撃されてしまいー。

という話です。

――――――

ストーリーはさておき、話は守田が書く手紙だけで進んでいきます。

そして守田が手紙の相手はもう一人いました。伊吹夏子。

彼女へはまともな手紙 を書くことができずにいましたが、能登を引き払い京都に戻るのを機に、思いを伝えるための手紙を書きます。

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どうすれば思いは伝えられるのか

例によって例の如くの「森見ワールド」です。

主人公守田一郎は、安定の妄想っぷりで、この手紙だって「ホントに返事きてるの?」と疑いたくなることも。

京都の四畳半を離れ能登に行ったところで、あの世界観は変わりません。

これこそが、一部の人々に「森見登美彦 苦手」と言われるゆえんでしょうがー。

しかし、ありとあらゆる言葉、表現によって「机上の妄想」を文章化しているこの作品のしめくくりが、なんともストレートで、しかも柔らかく、心に残ります。

僕はたくさん手紙を書き、ずいぶん考察を重ねた。
どういう手紙が良い手紙か。
そうして、風船に結ばれて空に浮かぶ手紙こそ、究極の手紙だと思うようになりました。
伝えなければいけない用件なんか何も書いていない。ただなんとなく、相手とつながりたがってる言葉だけが、ポツンと空に浮かんでる。
この世で一番美しい手紙というのは、そういうものではなかろうかと考えたのです。<『第12章 伊吹夏子さんへの手紙』より引用>

「好き」を伝えよう、なんておこがましいことなのかもしれない。

ただなんとなくつながりたいー、その思いがあれば充分。

そう思いました。

◆森見登美彦氏の最新作はこちら

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