勝手に見たよ! ゴダールはやっぱり苦手鑑賞記

映画
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「映画好きっていうなら、ゴダールの1本や2本は見ておかないと」と、ちょっと上の世代にイヤミを言われた90年代。

そう言われて『勝手にしやがれ』(’59)と『気狂いピエロ』(’65)を見たものの、正直面白かったかというと……。

当時映画界はアメリカの娯楽映画が盛況。それらのヒット作に比べると、ゴダール作品はストーリーはあるんだかないんだかわからないし、映像も音楽も独特でー。

あれから30数年が過ぎ、ワタシの映画の好みも若干変わってきました。映画の見どころはストーリーだけじゃないこともわかってきました。(こちら、映画批評の自主トレ記です)

ジャン=リュック・ゴダールとは

そんな今年、そのゴダールが死去しました。(2022年9月13日、91歳)

先ほどからゴダール、ゴダールと親し気に言っておりますが、そうでもないのであらためてご紹介を。

ジャン=リュック・ゴダールはフランスの映画監督。ヌーヴェル・ヴァーグの中心人物として時代を牽引し、後の映画界に大きな影響を与えた偉大な人物です。

ヌーヴェル・ヴァーグは映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』周辺に集まった若き映画批評家集団で、その中でも尖っていた面々(フランソワ・トリュフォー、ジャック・リベット、クロール・シャブロル・エリック・ロメールなど)はカイエ<右岸>派と呼ばれました。対し、ちょっと温厚で大人なセーヌ<左岸>派(アニエス・ヴァルダ、アラン・レネ、アンリ・コルピ)

ゴダールはもちろんカイエ派。それまでの映画の常識や知的体系を破壊し時代の寵児となったのです。

苦手克服なるか!? ゴダール鑑賞記

そんなゴダールがずっと苦手だった私ですが、追悼の意をこめてこのたび未視聴の4作品を見てみました。

まずはこれから。

これは良かった! 映画『はなればなれに』(’64)

これは良かった! 映画『はなればなれに』(1964年)は、2人の小悪党と無垢な女によるコメディタッチの犯罪狂想曲。

映画『ウィークエンドはパリで』(2013年)でもオマージュとして描かれているマジソン・ダンスのシーン、ルーブル美術館を走り抜ける、ぶつ切りのナレーション挿入、そしてアンナ・カリーナが可愛い!

そんなアンナ・カリーナ演じるオディルはアチュール(クロード・ブラッスール)のほうに惹かれるんだけど、私だったらフランツ(サミー・フレー)一択ですよ。ホント、カッコイイ。今見ても鮮烈な1本でした。

ちょっとよくわからない、映画『中国女』(’67)

「ゴダール、面白いじゃん、やっぱカッコいいじゃん、私、ゴダールわかるやん」と気を良くしたところで、かねてからずっと見たいと思っていた映画『中国女』(1967年)を見ました。

マルクス主義、文化大革命に心酔するパリの若者を描いたこの映画。ゴダールが政治色をモロ出しています。

“今作られつつある映画”と冒頭にあるように、当時世界は社会主義運動の真っただ中。が、それから50年以上が経過。その後の世界を知った上で見ると、テロリズムに傾倒していく姿が痛々しくもある。しかも、めっちゃオシャレ。

ヒロイン、アンヌ・ヴィアゼムスキーはアンナ・カリーナの次の奥さん。ゴダールの女性の趣味がわかりすぎます。

そしてこの映画のあと、ゴダールは商業映画からの決別を宣言します。
1968年5月革命のさなか、トリュフォーらとともにカンヌ国際映画祭粉砕事件を起こしたり、オートバイ事故に遭ったりー。やっぱりわからなくなってきたゴダール……。

そうだ!ゴダールの解説本を読んでみよう

やっぱりよくわからないゴダール作品。「そうだ! 解説本を読んでみよう」と手に取ったのがこちら。

『ゴダール革命』蓮實重彦・著

蓮實重彦 ✕ ゴダールという難解コンボだった。ますますわからん……。

若き頃の出演作『紹介、またはシャルロットとステーキ』(’51)

わからなさすぎて、ますます近寄りがたくなってきたゴダール。そこでちょっとでも威圧感の軽減を図ろうと思って見たのがコレです。映画『紹介、またはシャルロットとステーキ』(1951年/エリック・ロメール監督)

10分少々の短編映画に当時20歳のゴダールが出演しています。
ゴダール青年が部屋に来ているのに、コートを着たまま肉を焼き始めるシャルロット。突っ立ったまま待たされているゴダール青年。その肉をちょっと食べてキスをしようとするけれど、「アナタは暗いし」とそでにされるゴダール青年。 が、どうにかキスを果たすがー。

あのゴダールがちょっとイジイジしていて可愛く思えてくる1本です。

イザベル・ユペールならなんとかなる? 映画『勝手に逃げろ/人生』(’79)

さて本題に戻ります。

1979年、ゴダールも商業映画界に戻ってきました。その復帰第1作『勝手に逃げろ/人生』(1979年)です。

TVプロデューサーとその愛人、若い娼婦を中心に恋愛や家族、人生が「想像界」「不安」「商売」「音楽」の4章で描かれています。

スローやストップモーションを多用した編集、ブツ切りの音楽、ちっともエロくない娼婦との絡み。躍動と退廃が同居した世界観が印象的です。

です、って言いきったもののよくわからん。ま、なんといっても見どころは娼婦を演じる当時20代前半のイザベル・ユペール先生。すでにただものではない存在感を放っています。

芸術って大変、映画って大変  映画『パッション』(’82)

ユペール先生の出演作でもう1本。映画『パッション』(1982年)

レンブラントやドラクロワなど絵画の再現映画の作っている現場が舞台のこの映画。

監督が”光”にこだわるもんだから撮影はすすまないし、役者たちもヌードほか酷な現場。そんななか監督は撮影場として借りた工場の経営者の妻、そして不当解雇された従業員(ユペール先生、セシルカットですよ!めっちゃプリプリ怒っててカワイイ)との三角関係にー。

が、やっぱり話がよくわからん。作中でも「物語がない」とツッコミが入るんですが、「映画(光)」がもたらすのは物語だけじゃないってことですか!?

とにかくこの映画の映像美はスゴイ。
数年前にレンブラントの「夜警」をショッピングモールの中で再現するフラッシュモブがありましたが、それとは段違いの完成度。撮影現場も大変だろうな、と。もはや感想はそれだけです。

「わかる」ことだけが映画じゃない!

というわけで、ゴダール苦手は解消されるどころか悪化した状況です。

が、とても大事なことを教えてくれたゴダールの難解映画。

「わかる」ことだけが映画鑑賞の到達点ではない。よくわからないけれど頭がクラクラしたり、胸がザワザワしたり、下腹部がムズムズしたり、そんな体験をさせる映画ってスゴくないですか?

やっぱりゴダールってスゴイ。ご冥福をお祈りいたします。

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