『夜と灯りと』クレメンス・マイヤー 言葉で整えられることを拒むような気持ち

本と読書

『夜と灯りと』は、2006年のドイツ映画『希望の灯り』の原作短編『通路にて』を含む短編集です。東西統一後のドイツで「負け組」として生きる人たちの姿を描いています。

作者は旧東ドイツ生まれのクレメンス・マイヤー。統一後のドイツ、ライプツィヒの不良少年たちを描いた初長編『おれたちが夢見た頃』が「東ドイツ版トレインスポッティング」と評されベストセラーに。鬱屈した社会の中で、マイヤーが光をあてる人々の物語とはー。

『夜と灯りと』の内容紹介

元ボクサーの囚人、夜勤のフォークリフト運転士、ドラッグに溺れる天才画家、小学生に恋する教師、老犬と暮らす失業者、言葉の通じない外国人娼婦に入れ込むサラリーマンー。東西統一後のドイツで「負け組」として生きる人間たちの姿を、彼ら自身の視点から鮮やかに描き出す12の物語。極限まで切り詰めた言葉の積み重ねが、過酷な日常に射すかすかな光を浮き彫りにする。ライプツィヒ・ブック・フェア文学賞受賞。

「負け組」の物語とは

ベルリンの壁が崩壊し、ふたたび一つの国になったドイツ。再統一したものの東西の格差は大きく、旧東ドイツは深刻な不況に陥りました。多くの失業者を生み、人々は新体制への不信感や劣等感を膨らませていく。『夜と灯りと』にはそんな人々の物語が描かれています。

『犬と馬のこと』は、わずかな失業手当しかない男性の物語です。妻が出ていったあと、心のよりどころとなった愛犬が遺伝性の病気で満足に歩けなくなった。医者に診せたところ手術するしかない、がその治療費があるわけがない。そこで思いついたのがー。

言葉で整えられることを拒むような気持ち

この本に描かれているほとんどが、ドン詰まりと思える人々の姿です。陰鬱で哀れでどうしようもない。作者はそれを、短く端的な言葉で綴っていきます。

特に一人称で書かれた独白のような物語は、まるで「読むな」と言っているかのよう。
読むほうとしては少しでもわかりたいと、「東西格差」という社会背景に目を向けてみたりする。けれども、登場人物たちはこちらのそんな思いとは関係なしに生きていくのです。
貧しくても清く正しく生きてこうとする姿とか、体制に立ち向かう反骨精神といったものはこの物語には見当たりません。「負け組」と見なされる世界のなかに「あるはず」「あってほしい」と外野が勝手に思い描くものを、「そんなものはない」「そんなものはなくても生きていく」とクールにかわしていくかのよう。

いくつかの物語には共通の名前の人物や場所が登場します。そのことが、描かれていないところでも登場人物たちは「生きている」という想像をさらに膨らませます。

そしてこの物語が「あるとき、ある国」の特殊なものではなく、誰にでもあるもの、自分自身にもあるものだと気づかされるのです。生きることをつき動かずのは、物語に映しだされた「言葉で整えられることを拒むような気持ち」なのかもしれません。

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