映画のカメラワークによる心理的効果

批評を独学する

批評を独学している私による、ほぼ私のための超解説です。できるだけ噛み砕いたものを置いていきますので、興味のある方はどうぞ。

今回は映画のカメラワークについて。

ストーリーや登場人物のキャラ、演技についてのあーだこーだだけでなく、カメラワークについてもカッコよく語ってみたい!という不純な動機はさておき、映画に欠かせないカメラワーク。見る人の視点、視野が固定される舞台演劇と違い、映画はカメラによって「見えるもの」が操作されています。

カメラワークによって受ける印象も大きく異なる。「面白い」「ワクワクする」「怖い」「なんか変だな」といった感情も、カメラが「何を映しているか」ではなく「どう映しているか」に起因するところが大きいというのです。

カメラワークのおもな手法と心理的効果

まずは代表的な手法とその心理的効果をザックリと理解していきましょう。

ショット/シーン/シークエンス

ショット:カメラワークの基本単位 (日本では”カット”が同様に使われることも多い)
シーン:ショットの集まり
シークエンス:シーンの連なり

切り返し(カット/カットバック/リヴァースショット)

ふたつの物事をそれぞれ逆のアングルから交互に撮ること。臨場感のある映像を作ることができる。

2人の人物が向かい合って話をしているシーンで、交互にその表情をとらえるリーバースショット。
喋っている人物と聞いている人物の表情が交互に映し出されることで、2人の力関係やその場の緊張感が伝わってくる。

さらに、その2人を同時にとらえるようにカメラが引いていけば、なんとなく和解、調和したように見え、どちらか一方のアップ、あるいは背後をとらえるショットにつながると決別を想像させる、という具合。

*参考映画『ペイド・バック』(2010年)
拘束した元ナチスの医師とモサドの工作員のシーン。緊張感の高まりとともに徐々に立場が変化していくことがわかる。

シークェンス・ショット(ワンシーン/ワンショット)

映画『1917 命をかけた伝令』

ひと連なりの連続した映像。緊張感や臨場感を維持できる。

いわゆる「長回し」はそれ自体が話題になることも多い。映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『1917 命をかけた伝令』などは、実際は高度な編集がなされ「長回し風」に見せている。ヒットした日本映画『カメラを止めるな』は、前半部分を実際に「長回し」で撮影し、後半その裏側を見せる。

「シーンがつながっている」ことで、”どこからどこまでが現実なのか(『バードマン』)”、”絶対に途絶えさせてはいけない任務(『1917』)”、”見えないシーンで起きていること(『カメラをー』)”といった、それぞれの映画のテーマも見えてくる。

ロングショット/引き

被写体とカメラの位置が遠いショット。見る側を冷めた立場に置く効果がある。

*参考映画『ハッピーエンド』( 2017年/ミヒャエル・ハネケ監督)  
何が起きているのか知りたいが「見ているほかない」という気持ちにさせられる印象的なシーンがある。

(⇔クローズショット/クローズアップ/寄り)

*参考映画『バリー・リンドン』(1975年/スタンリー・キューブリック監督)
細かいディテールをとらえる寄りの映像からカメラを引いて全景を映し出すショット。一般的な撮影手法とは逆の方法で、このことにより見ている側は情緒的な感情移入がしにくくなる。

ローアングル

被写体を下から見上げるように撮影。被写体をたくましく、強く見せたり孤立感を感じさせる効果がある。

(⇔ハイアングル/被写体を弱い、無力な立場に見せ、見る側に支配的心理を生みだす)

小津安二郎監督(1903-1963年)はローアングルで有名。日本家屋の奥行とともに、当時の”家”や”家族”の価値観をローアングルによって表現している。

パン

カメラを右→左(左→右)に振る方法( 上下は「チルト」)
広さを表現したり位置関係の説明ができる。 移動する被写体を追う。 

トラッキングショット(移動撮影)

パンよりもダイナミックに被写体を追う。 「この先、どうなる?」という期待感を生み出しやすい。被写体の移動に伴い情報量も多くなりシーンの状況を理解しやすくなる。

*参考映画『赤ちゃん泥棒』(1987年/コーエン兄弟監督)
サム・ライミ監督(『死霊のはらわた』『スパイダーマン』シリーズほか)が考案した”シェイキーカム”(木材の中央にカメラをつけ、両端を人が持って全力で走る:予算の都合で”ステディカム”が使えなかったらしい)を使ったシーンは必見。

手持ち撮影

撮影者の視点(POV=Point of view)を反映しリアリティ、臨場感をもたらす手法。ホラー映画やパニック映画で多用される。

*参考映画『夫たち、妻たち』(1992年/ウディ・アレン監督)
離婚を考える2組の夫婦の落ち着かない心情を手持ち撮影で映し出す。カメラの揺れで気分が悪くなる効果も相まって、この夫婦の行く末に倫理観など差しはさんでもどうにもなりゃしない、という気分にさせられる? (個人の感想です)

パンフォーカス(ディープフォーカス)

映画『市民ケーン』

近景から遠景までピントを合わせて撮影されたもの。リアリズム技法のひとつ。
なんといっても映画『市民ケーン』(1941年/オーソン・ウェルズ監督)が有名。

カメラワークを気にしていると映画に没頭できない!?

映画を見ていると、ついついストーリーに没頭しカメラのことなど忘れてしまう。そんなときは「何度も見る」覚悟を決めるしかないでしょう。

初見はストーリーに没頭し、2度目はカメラワーク他細部を見る。心が動かされたシーンは「なぜそう思ったのか」をカメラワークを念頭に置いて確認する。慣れてくれば初見時からストーリーとカメラワークを同時進行で楽しめるようになる(はずです)

モノローグや会話など言葉からだけではなく、映し出されたもの(人物、景色など)とその映し出し方から映画のストーリーやテーマを読み取る。「何が言いたいのかわからない」なら、わかるまで見る。”何が”ではなく”どう”描かれているのかを見る。

今回はここまで。

<参考文献>
 『映画技法のリテラシー』 1⃣映像の法則 2⃣物語とクリティック 
 『映画編集とは何か 浦岡敬一の技法』
 『アートを書く!クリティカル文章術』
 『映画史を学ぶ クリティカル・ワーズ』
 『現代映画ナビゲーター』
 『シネマ頭脳 映画を「自分のことば」で語るための』
 『Viewing Film 映画のどこをどう読むか』

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