『メルケル 世界一の宰相』 カティ・マートン 現代世界史を学び直すおすすめの1冊

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2021年に政界を引退したメルケル元ドイツ首相。本書『メルケル 世界一の宰相』は16年に渡りドイツとEUを率いてきた傑出の政治家、アンゲラ・メルケルの評伝です。

東独で育ち科学者を志した日々、ベルリンの壁の崩壊と政治家への転身、プーチン、トランプ、コロナ禍まで、世界で何が起こりそれにどう対処したのか。メルケルの人柄さながらの「誉め」「アゲ」を控えた筆致で綴る現代世界史の学び直しにおすすめ1冊です。

『メルケル 世界一の宰相』の内容紹介

世界最高の権力を持った女性宰相メルケルの決定的評伝!

東独出身の地味な理系少女が、なぜ権力の頂点に立てたのか?
――その強さの源泉は「倫理」と「科学」にあった。

牧師の娘として、陰鬱な警察国家・東独で育つ。天才少女としてその名を轟かせ、ライプツィヒ大学の物理学科に進学。卒業後は東独トップの科学アカデミーに科学者として勤務する。だがベルリンの壁崩壊に衝撃を受け、35歳で政界へ転身する。

男性中心のドイツ政界では完全なアウトサイダーながら頭角を現す。その過程では、東独出身の野暮ったさを揶揄されたり、さまざまな屈辱的な仕打ちも受けた。40歳で環境大臣に就任すると気候変動に取り組み成果をあげる。51歳で初の女性首相へとのぼりつめる。

首相としてドイツをEU盟主へ導き、民主主義を守り、ユーロ危機も乗り越えた。トランプ、プーチン、習近平ら癖のある各国首脳とも渡り合う。人道的理由から大量の難民を受け入れた。一方で、極右やポピュリズムの台頭にも悩まされた。元科学者ならではの知見を生かし、コロナとの戦いに打ち勝った。

演説では美辞麗句を好まず、事実のみを述べるスタイル。聴衆を熱狂させるオバマのような能力はないと自覚している。SNSは使わない。私生活も決して明かさない。首相になっても普通のマンションに住み、スーパーで買い物をする庶民的な姿が目撃されている。得意料理はジャガイモのスープ。熱烈なサッカーファン。夫の渾名は”オペラ座の怪人”。彼女がロールモデルと仰ぐ意外な人物の名前も、本書で明かされる。

文藝春秋HPより

評)「誉め」「アゲ」が控えめな”らしい”批評で世界を見直す

「ドイツのちょっとコワモテの女性首相」という印象しかなかった(スイマセン)メルケル氏。
が、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻によって欧州のみならず世界全体が危機に瀕する中、「メルケルがいれば」という世間の声に、あらためてその存在の大きさを知り、私はこの本を手に取りました。

プーチンやトランプ、習近平といった猛者、難敵との攻防、自分とはまったくスタイルの違うオバマへのけん制と信頼、マクロン(現フランス大統領)への期待。そうした外交の裏話は興味深く読むことができました。

一方、メルケル氏の人としての在り方が政治に及ぼした「負」の影響もしっかりと批評されています。

慎重で粘り強い姿勢は悪く言えば頑固。科学者らしく完結すぎるスピーチは人の心に刺さりにくい。そのことがシリア難民の大量受け入れに対する国内の批判と極右の台頭による分断を作り出し、さらには、旧東ドイツでの辛い経験を持つ身ながら、故郷を見捨てた成功者と見られてしまったといいます。

「誉め」「アゲ」が控えめな著者カティ・マートンのあっさりとした筆致は、まるでメルケル氏そのもののよう。そこに著者のメルケル氏への信頼と敬意を感じました。

最終章で描かれる新型コロナに対する厳しい言葉でのロックダウン宣言。
「日本のリーダーもああだったらー」、と日本メディアでも話題となったのは記憶に新しいところです。

で、その日本ですが、この本の中になかなか登場しない。「やっぱり欧州から見たら日本は極東の小国か……」とやり過ごそうとしたところー、

ありました! 安倍元首相に関する言及が2カ所(私は思わず吹きました。トランプのバーターです)。

傑出の政治家、アンゲラ・メルケルを通じて国際社会と現代世界史を学び直す1冊『メルケル 世界一の宰相』おすすめです、ぜひご一読を。

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