『レイラ最後の10分38秒』エリク・シャファク 死が与えた「生きる力」

本と読書

2017年、臨床死に至ったある患者が、生命維持装置を切ったあとも10分38秒間、生者の熟睡中と同種の脳波を発し続けたと医学誌が発表。このニュースに興味を持った作家エリク・シャファクの本書『レイラ最後の10分38秒』。

その10分38秒に人は何を思うのだろう、人生を振り返るとしたらー。

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『レイラ最後の10分38秒』の内容紹介

1990年、トルコ。イスタンブルの路地裏のゴミ容器のなかで、一人の娼婦が息絶えようとしていた。テキーラ・レイラ。しかし、心臓の動きが止まった後も、意識は続いていた──10分38秒のあいだ。1947年、息子を欲しがっていた家庭に生まれ落ちた日。厳格な父のもとで育った幼少期。家出の末にたどり着いた娼館での日々。そして居場所のない街でみつけた”はみ出し者たち”との瞬間。時間の感覚が薄れていくなか、これまでの痛み、苦しみ、そして喜びが、溢れだす。

早川書房『レイラ最後の10分38秒』より引用

物語は、思い出す匂いや感覚とともに1分ごとにレイラの人生の断片を綴っていきます。

男尊女卑、女性蔑視の著しい社会の中で懸命に生きるレイラが出会う、生涯の友となる5人。
農家の息子ナランは、幾度もの手術の末、女性の外見を手に入れたトランスジェンダー。幼馴染みのシランはひどく内気。イスラム教徒の女性ザイナブは小人症という身体的ハンディキャップを持つ。ナイトクラブの歌手ヒュメイラはDV夫とその家族に追われる身。ジャメーラは政情不安の故国からトルコに亡命したソマリア人。

レイラと5人との出会い、そして5人それぞれの背景を描く1章の「心」。死後、”寄る辺なき者の墓地”に埋葬されたレイラと5人を描く2章の「体」。そして最終章の「魂」の3章で構成されています。

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死が与えた「生きる力」

何者かによって殺され、ごみ箱に投棄されるー。考えつく中でもかなり悲惨な最期です。
なぜレイラはこんなふうな死に至ったのか、それを考えながら読み進めます。が、10分38秒の回想で描かれるレイラの人生は不幸のオンパレード。5人の友人も同じ。だれもが業を抱えて生きています。

どうしてこんなふうな最後となったのかー、直接の原因は徐々に明らかになっていきます。また小説の舞台となった当時のイスタンブルでは、娼婦を狙った殺人事件が多く発生していたという社会背景も見えてきます。が、読み進めていくうちに「なぜレイラは死んだのか」はどうでもよく思えてくるのです。

死への経過がどうでもよく思えるほどに押し寄せてくるのは、圧倒的な生命力。けして超人でも賢人でもなく、自分と同じ「社会からはみ出てしまう人々」に深い情を抱き、放っておくことができないレイラ。死んでいるレイラなので「生き生きとー」というのは変ですが、読んでいてビシビシ伝わる「生きる力」。死んでいるレイラのもたらす「生きる力」は、5人の友人を通じて、きっと多くの人に届くことでしょう。


トルコという異国が舞台となっていますが、ここに描かれているのは今なお世界中にある異端を排除し罰さえ与える社会です。その社会の中で強く生きるとはどういうことかー、『レイラ最後の10分38秒』で、ぜひ。

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